タイトル 〜吸血鬼〜

アヴェイユ・ファストリア ♀
真祖の吸血姫 定春から頼まれて彼を吸血鬼に変えた。
どのくらい生きているのかわからないほど長く生き続けているが、人間は変で面白いと言う。
(かなり出ずっぱりです、覚悟してください)

有馬定春 ♂(名前どうしようとおもいましたが、自分と重ねてこの名前に決定・・・。でしゃばりな作者ですいません;まぁ、あれです、好きに演じてください)
人生に絶望していた男。ある日の深夜、黄昏ていたときにアヴェイユと出会い、彼女に人生の悩みを打ち明ける。
そして、徐々に徐々に彼女の美しさに惹かれてゆくと同時に、彼女が普通の人間ではないことに気がつき始める。
吸血姫だと打ち明けられたときに、自分もそうなりたいと願い、吸血鬼となる。
自分の気に入った少女を描いては、その血を吸っている。
(相当でずっぱりです、覚悟してry)

天月詩織 ♀
定春に気に入られて狙われた少女。
学校では委員長をしており、美少女で人気も高いが自分ではとくに美人だということには気がついていない。
定春の吸血鬼の能力である魅了に対抗するほど意志が強く、そこがさらに気に入いられ、魅了の能力なしで落とすことを目的とされる。
(後半まで出番ないです。のんびりしてください)


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有馬定春:

アヴェイユ:

天月詩織:

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定春
「人間とは、人生とは、なんと虚しいものなのだろうか・・・・。
 終わらない闘争、なくならない争い、差別を生む競争・・・・。実につまらない
 なのに、その中に溶け込もうとあがいている自分・・・・どちらも相応にくだらない
 自分らしく生きたいのに、それがなかなかできないでいる」

定春 散歩にでた川原にすわり、俺はそんなことを呟いた。

定春
焦っている、確実に焦っている。そして、不安だ。この先どうしたら良いのか・・・・。どう生きれば良いのか。
就職先もなければ、いまみたいな社会環境で働ける自身もない・・・・。
死ぬ勇気もない、どうすればいいのだろう?
そもそも、社会環境が悪いのは働いている人間が自分たちの環境を良くしようとしないからだ、政府もわけがわからない。
ブラック企業が蔓延するのは、国の体たらくのせいだ。もう個人では対処の仕様がないくらいに企業の力が強くなっていて、誰も声を出せない状態なのだ。
そして、それを許している国・・・・まるで、悪いことをしている子供を叱れない親のようだ。
だからといって、このままで良い訳はないのだが、それでも、楽しさを感じられなくなってしまった・・・・。
だから、何もできないでいる。
ゲームを製作してみたりしても大した物は作れず、絵がうまくなりたいといっているが練習や努力がてき面にできない。
どうしたらいいんだ・・・・どう生きたいんだ俺は・・・・。



アヴェイユ「面白いこと考えているんだね」

定春 一人の少女が隣に来ていた。いつのまに来ていたのだろう?考え込んでいて気がつかなかっただけか・・・・。

定春「え?ああ、その・・・・」

アヴェイユ「ふふ、どうしたの?」

定春「あ、いや、その・・・・。女から声をかけられたことなんて全然ないから、その・・・・」

アヴェイユ「ふ〜ん」

定春「まして、その、君みたいな、その・・・・」

定春
俺に話しかけてきたその少女はまるで物語の世界から出てきたような、透き通るような白い肌、金色の髪、そして・・・・。
魅惑的な桃色の様な紅い瞳・・・。

アヴェイユ「隣、座っていい?」

定春「あ、ああ・・・・」

定春
彼女は俺の隣に座ったが、お互いに何を話すわけでもなく、時間が過ぎていった。
不意に彼女が口を開く。

アヴェイユ
「社会への不平、不満、それに対応できない自分自身への怒り、色々ありそうだね。
どうして自分はできないのか、異常なのは自分なのか周りなのか、過去や未来ばかり見て今を生きれない自分が嫌で、だから楽しさを忘れてしまって、このままではどうしていいかわからない、どうしよう・・・。
そんな風に考えてたでしょ?」

定春
まるで心の中を見透かしているかのような彼女の言葉に、俺は動揺を隠せないでいた。

定春「そ、そうだけど、確かにそのとおりだけれど、どうして、わかるんだ?」

アヴェイユ「同じような人は多いよ、最近」

定春「そっか、心の中を読まれたのかと思ったよ」

アヴェイユ「ふふ。わたしが隣に座ってからは、殆ど私に対してのどうしよう、に、なってたけれど、ね。じゃあ、今日はそろそろ行こうかな」

定春「え!?・・・あ・・・。そ、そうだ、名前!君の名前、良かったら教えてくれないか?それから、それから、、また、また会えないかな?」

アヴェイユ「ああ、そういえば名前、ね・・・・。わたしはアヴェイユ・ファストリア」

定春「アヴェイユ・ファストリア・・・・」

アヴェイユ「普通にアヴェイユでいいよ」

定春「あ、ああ」

アヴェイユ「あなたの名前は・・・・定春、ね」

定春「!?なんで、俺の名前」

アヴェイユ「ふふ、また話そう、定春」

定春
それが彼女、アヴェイユと俺の出会いだった。それからは彼女に会いたいがために、夜になるとその川原へと足を運んだ。
昼間も待ってみたが、彼女が来るのは夜だけだった。



アヴェイユ「こんばんわ、あれ?絵を描く道具持ってきたんだ」

定春「ああ、うん。イーゼルとか用意してみたんだけれど・・・油絵とか全然しらないからカラーインクを使って描いて見ようかなって・・・」

アヴェイユ「ふ〜ん、わたしの事を描いてくれるんだよね?」

定春「そうだけど、その・・・」

アヴェイユ「ヘタだから期待するなって?」

定春「ああ、うん。本当にヘタなんだ。ゲームとか物語とかは創るけれど、せめて絵がもう少しうまければっておもってばかりで、そうすれば、人を楽しませられるのにって・・・」

アヴェイユ「うまいとかヘタとかは気にしなくていいんじゃないかな?」

定春「そうだけど・・・」

アヴェイユ「ふふ、まぁ、いいわ、できたら見せてね」

定春「うん。でも、こうやって、ちゃんと見て描いたり、肖像画とか描いたりするのかなり久しぶりで、時間掛かりそうだから、その・・・」

アヴェイユ「ゆっくりでいいと思うな」

定春「その、完成するまで、また、ここで・・・」

アヴェイユ「いいよ」

定春
それから、何度かその場所で彼女と話をした。話といっても自分の思っていることや、駄目な部分を吐き出している感じだったが、彼女はそれをいつも黙って聞いてくれる。絵のほうはその間に少しずつ描いていき、完成しそうだった。
それ以外は、話すというより、一緒に居るだけ、それだけなのに不思議と落ち着くことができた。やっぱり、こんなに可愛い娘と一緒にいるからだろうか?


定春「もうすこしで、完成しそうなんだけど・・・」

アヴェイユ「そうなんだ、どんな風になった?」

定春「時間かけた割りに、やっぱりヘタだ・・・」

アヴェイユ「ふ〜ん、見せて」

定春「うん・・・」

アヴェイユ「ふふ、確かにあまりうまくないね」

定春「そう、だよなぁ・・・」

アヴェイユ「描いていればそのうちに良くなるんじゃない」

定春「そう、なんだろうけど・・・なぁ・・・それが、なかなかできなんだよな、描き続けることとか、努力とか、なんでだろう・・・」

アヴェイユ「人間は同じ事をすると飽きちゃうから、ね」

定春「飽きちゃってるのかな・・・でもなぁ、もすこしこう」

アヴェイユ「ふふ」

定春「はぁ。俺は顔だっていいわけじゃないし、考え方も偏ってるし、硬いし、努力はできないし、駄目な部分を上げたら切がない。君みたいな娘と一緒に居られるだけで夢みたいだ、このまま時間が止まってしまえばいいのにとすら思うよ」

アヴェイユ「時が止まれば、ね」

定春「・・・。絵なんだけど、また描くから、その、うまく出来たら、もらってくれないか?」

アヴェイユ「別に、この絵でも良いけれど、ね」

定春「いくらなんでも、これは、その、ヘタすぎるよ」

アヴェイユ「本当に自分のしている事とか、そういうのに自信がないんだね」

定春「・・・・・・」



アヴェイユ「治してあげようか?」

定春「治るのか!?自信がついて、このよくわからない不安や怒りや虚無感をなんとかできるのか!?」

アヴェイユ「ふふ、吸血鬼って、信じる?」

定春「きゅうけつ、き?」

アヴェイユ「うん。いまあなたの目の前にいる私がそうだとしたら・・・・くすくす」

定春「・・・・」

アヴェイユ「そんなの居ないって、思う?」

定春「・・・・いや、君を見ていると、そうなんじゃないかなって、そう思う」

アヴェイユ「ふ〜ん」

定春「本当だ、君は、人とはなにか違うって、そう感じていた」

アヴェイユ「信じてくれるんだ」

定春「ああ、信じる」

定春 出会ったばかりならば、信じられなかっただろう。だが、俺は彼女のことを信じるに至る軌跡がある。

定春「吸血鬼といえば、ほら、人の心を覗いたりとかできるし、アヴェイユはそういうこと出来そうだから」

アヴェイユ「読んでたけれど、ね」

定春「そうか、まぁ、そうだよな」

アヴェイユ「怒らないんだね」

定春「なにが?」

アヴェイユ「本当に心の中を覗いてたこと、とか」

定春
「・・・・。全部覗いてほしかったんだと思う、口に出せないこととか、全部。だから、覗いてくれて、それでも逃げたりしなかったし、おかしいとか、甘えてるとか、子供みたいだとか、そういったことを言わなかったし、寧ろ、感謝してる」

アヴェイユ「定春が自信が無い所とか、焦りとかそいうの全部治せるよ」

定春「本当か!?」

アヴェイユ「本当、だよ」

定春「吸血鬼になれば、か?」

アヴェイユ「そうだね、時間とかそういうのに縛られなくなるから」

定春「・・・・・・」

アヴェイユ「怖い?」

定春「いや・・・。この嫌なつまらない感覚から抜け出せるなら、なんにでもなってやる」

アヴェイユ「ふふ」

定春
彼女は少しの間俺の目を見つめる、そして、ゆっくりと首筋に顔を近づけた。
彼女の息が首筋にかかる、数少ない幸せを感じた時と痛みを感じたときは同時だった。


アヴェイユ「ん、っ・・・んっく・・。・・・ふふ、お疲れ様」

定春
脱力感を感じるが、長らく忘れていた幸福感も感じていた。

アヴェイユ「どう?」

定春「本当に、吸血鬼なんだな・・・」

アヴェイユ「そうだって、いったよね」

定春「ごめん、本当は少しだけ、半信半疑だった・・・」

アヴェイユ「ふふ」

定春「なんだろう、頭がぼーっとする・・・」

アヴェイユ「最初はそうだね、けど、すぐに治るよ。数日はそのままだと思うけれど」

定春「アヴェイユ、君も誰かに吸血鬼にしてもらったのか?」

アヴェイユ「吸ったことは何度もあるけれど、吸われた経験はないなぁ、ふふ」

定春「?」

アヴェイユ「生まれたときから、わたしはこうだったから」

定春「最初から、吸血鬼だったのか?」

アヴェイユ「そうだよ」

定春 そういって彼女は笑う。すべてを魅了しそうな笑顔で・・・・。




定春
吸血鬼となってからは、俺の生活は一変した。必要なものも少なくなった。まず食べ物が必要ない。そして新陳代謝もなくなったのか、風呂に入らずとも汚れることがない。
服は、まぁ、元々不精者だったから、これも大して必要ではなくなった。吸血鬼になって数日、太陽の下に出ても平気なことがわかったし、ニンニクもとくに問題はなかった・・・が、のどの渇きまではどうしようもない・・・・。

アヴェイユ「こんばんわ」

定春「やぁ」

アヴェイユ「あれ?まだ血を吸ってないんだ」

定春「わかるのか」

アヴェイユ「顔色、悪いもの」

定春「そうか・・・」

アヴェイユ「本能に任せて吸っちゃうと思ってたんだれど、ね」

定春「そうしようと思ったけど、なんだか、抵抗があって・・・」

アヴェイユ「一度吸っちゃえば、かわるよ」

定春「そういうものか、、でもさ、手当たりしだいというのはなんだか危ない気がするんだ」

アヴェイユ「くすくす・・・。どうして?人なんかとは比べ物にならないくらいの力を手に入れてるのに」

定春「いや、血を吸った相手が同じ吸血鬼になっていったら、いずれ誰かが気がつくだろうし、そうなると、色々面倒かなとも思うし、それに、いきなり襲い掛かったらそれこそ事件になってしまうし・・・どうするべきかと・・・」
 
アヴェイユ「そう、ちゃんと考えてるんだね」

定春「心配性なだけだよ」

アヴェイユ「ふふ、じゃ、少し考えたご褒美を上げる」

定春「ご褒美?」

アヴェイユ「うん。まずね、定春を吸血鬼にしたのはわたしだから、定春の意思なしで噛んだ相手が吸血鬼になることはないよ」

定春「そうなのか、ああ、じゃあ、もしかしたら、太陽とかが平気なのも・・・?」

アヴェイユ「そうだね、わたしは太陽は少し苦手だけれど、ね」

定春「まぁ、俺も平気だけれど、いい気分ではないな・・・」

アヴェイユ「それと、無理やりに連れてこなくても、向こうから来てくれるようにすることができるよ」

定春「なんと!?どうすればいいいんだ?」

アヴェイユ「相手の目を見つめて、自分を好きになるように念を送る、とかでいいかな」

定春「そんなに簡単なのか・・・」

アヴェイユ「相手の意志が強かったり、同じ吸血鬼とか人じゃなかったりしたら、難しくなるんだけれどね。普通の人間なら特に難しいことはなく魅了できると思うよ」

アヴェイユ
「それとね、定春が言ってたみたいに、手当たりしだい血を吸う相手がいるならいいけれど、そうでないときもあるから、そのときはブラッドフルーツっていう血と同じような味のものがあるから」

定春「それは便利だな、なら人を襲わなくてすむってことか?」

アヴェイユ
「ふふ、あくまで非常食だから、そこまでの栄養はないよ?本当に一時的にだから、一日持てばいいくらい、だよ。それに結構貴重だから。それと、動物の血も一応非常食くらいにはなるかな、美味しくないけれどね」

定春「そっか・・・。人の血なら、どのくらいもつんだろう?」

アヴェイユ「その吸血鬼によるけれど、私の場合は数年くらいは持つよ。それに人の血を吸えば吸うだけ、定春も強くなれるよ、吸血鬼として、ね」

定春「強く、か・・・別に強くならなくてもいいような気がする」

アヴェイユ「どちらにしても、一度人の血を吸ってみるのがいいと思うな」

定春「うーん、輸血パックとかじゃだめなのだろうか・・・?」

アヴェイユ「輸血パック、ね。のどの渇きは収まるんだけれどね。力はつかないよ?」

定春「俺は別に強くなることが目的じゃないし、なんか吸血鬼になったら、目的は達したというか・・・・」

アヴェイユ「虚しさとか不安とかを感じなくなったから、もういい?」

定春「まぁ、そうかな」

アヴェイユ「力をつければ、今みたいに覗かれる事はなくなるよ?」

定春「別に、心の中を覗くやつなんて、そうはいないだろ」

アヴェイユ「そうだけれど、ね。ふふ、手伝ってあげようか?」

定春「え?」

アヴェイユ「どんな娘がいい?それとも男の人がいい?」

定春「男などどうでもいい」

アヴェイユ「あはは、好みはそれぞれあるものね」

定春「好みか、14〜17くらいの年で、黒髪で色白で清楚なのがいい、かな・・・」

アヴェイユ「ふ〜ん、じゃあ、一緒に探しに行こうか・・・。まだ動けないほどじゃないよね?」

定春「ああ、まぁ、ちょっとだるいくらいだ、大丈夫」



アヴェイユ「あの娘なんてどう?」

定春「足が好みじゃない」

アヴェイユ「足?ふふ、面白い所が好きなんだね」

定春「拘り過ぎ、かな・・・?」

アヴェイユ「いいと思うな、初めての相手だもの」

定春「そうか、そうだよな」

アヴェイユ「あの眼鏡の娘は?」

定春「いいね、眼鏡っ娘は大好きだ」

アヴェイユ「決まり、かな?」

定春「ああ」

定春
アヴェイユがその娘に声をかける。最初はキョトンとして警戒もしていたが、瞳を見つめられると途端に力が抜けたようになり、まるで夢遊病者のように着いてきた。
その娘を連れて、誰も来なさそうな裏路地へとゆく。

アヴェイユ「ここなら、誰も来ないと思うよ。初めての場所にしてはあまりいい所じゃないけれどね」

定春「いや、大丈夫だ、それに、もう喉が渇きすぎて・・・」

アヴェイユ「ふふ、いいよ」

定春
連れてきた少女の首筋に牙を突き立て、貪る(むさぼる)ようにその血を啜る。甘い味が口腔に広がり、なんともいえぬ高揚感と幸福感が体を包んだ。



アヴェイユ「お疲れ様・・・。どう?吸血鬼になった気分は」

定春「本当にあれだけあった怒りや、不安、そういったものが全部吹き飛ぶように無くなった」

アヴェイユ「ふふ、あなたは・・・。もう帰っていいよ」

定春 アヴェイユがそういうと、俺が血を吸った少女はふらつく足取りで、その場から去っていった。

定春「・・・。傷口とかでばれたりしないだろうか・・・?」

アヴェイユ「大丈夫だと思うな、少したてば虫刺され位に小さくなるから」

定春「そうか、ならいいんだけど」

アヴェイユ「心配性なところと考えすぎるところは変わらないんだね」

定春「臆病なだけさ」

アヴェイユ「慎重なのは、悪いことじゃないと思うな」

定春「行き過ぎると駄目さ、考え込むだけで一歩も前に進めやしない、それがわかっていても変われなかった。君のおかけで変われたよ。それに血も美味しかった」

アヴェイユ「ふふ」

定春「やっと、本当に笑うことが出来るよ」

アヴェイユ「嘘の笑いは疲れた?」

定春「まったくの嘘ってわけではなかったけれど、なんだか、空虚だった」

アヴェイユ「なら、これからは、本当の自分で生きていけるね」

定春「こんな気分は、子供のとき以来だ」

アヴェイユ「よかったね。・・・それじゃあ、今日はもういくね」

定春「あ、まってくれ!」

アヴェイユ「うん、なに?」

定春「いつも君のほうから、会いに来てくれるけれど、俺から会いたいときはどうしたら・・・」

アヴェイユ「わたしは自分が会いたいときに会いに行くから」

定春「俺のほうからは、会いに来てほしくない、のか?」

アヴェイユ「そうだね。それに、会いたって思ってくれたら、またくるよ、暫くの間はね」

定春 アヴェイユの言った暫くという言葉が、ひどく胸に刺さる、いつかは来なくなるということだろう・・・。

アヴェイユ「寂しい?」

定春「だいぶ・・・」

アヴェイユ「ふふ、じゃあ・・・。そうだね、自分一人で誰かの血を吸うことが出来たらまた来てあげる」

定春「そんな、急にっ!」

アヴェイユ「ふふふ、それじゃあね」

定春「あ!まっ!・・・ふぅ、会いたければ、自分だけで、、か・・・」



定春
それからそう時を待たずに、自分だけで人を連れて来て、その血を吸った。やってみれば、いとも簡単だった・・・・。
血を吸った相手に自分で家に帰るようにさせると、フラフラとした足取りでその場を去っていった。
血を吸って高揚感を感じていると、約束どおり彼女がやってきた。

アヴェイユ「よくできたね」

定春「思ったより、簡単だった」

アヴェイユ「ふふ」

定春
血を吸った後は、前もそうだったが、満ち足りた気分になる。そして、血を吸われた人間も、同じように幸福感を感じているのだろう。俺がそうだったように・・・。

アヴェイユ「これで、もう大丈夫そうだね」

定春「ああ、もう自分だけで出来そうだけど・・・」

アヴェイユ「一緒に居られなくなりそうだから、寂しい?」

定春「・・・うん」

アヴェイユ「寂しがり屋だね」

定春「そりゃ、これだけの可愛い娘と一緒に居られたんだ、それが無くなると思うと、ね」

アヴェイユ「また、たまに会いに来てあげるよ」

定春「たまに、か。そういえば、すごい今さらだけれど、アヴェイユは綺麗で可愛いから、誰かに声をかけられたりとか、しない?ほら、スカウトとか」

アヴェイユ「もっと人の多い所でならあったよ」

定春「だよなぁ、初めて獲物を探しに一緒に歩いたときなんか、周りの視線がすごかった気がする」

アヴェイユ「ふふ」

定春「それと、その、俺みたいに吸血鬼にした奴とか、他に居るのか?」

アヴェイユ「いるよ」

定春「そっか・・・だよなぁ・・・俺だけじゃないよな」

アヴェイユ「ふふ、定春みたいな人もいたよ」

定春「まるで女神様だな」

アヴェイユ「神、ね・・・まぁ、似たようなものかもね」

定春「それにしても、俺みたいなのもいたか・・・。人間ってどこにいっても同じなのかもなぁ・・・」

アヴェイユ「変わらないから、面白いんだけれど、ね」

定春「飽きないものか?永遠に生き続けるということは、また、飽きてしまったら、元に戻ってしまうんじゃないかとか、考えてしまって」

アヴェイユ「本当に心配性だね。寧ろ今の定春が本当の定春だから、そうなることは無いと思うよ」

定春「そっか、なら、安心だ」

アヴェイユ「それに、わたしも飽きてないもの、人間にも、それ以外の事も、ね」

定春「言われてみれば、同じ事をしても飽きが来ないな。ひたすらに絵を描いてばかりいても、不思議と続けられるし、嫌な気分にもならない」

アヴェイユ「ふふ、よかったね」




定春
それからわたしは住処を変えたりして、色々な所に足を運んだ、行ってみたかった場所や、興味のあった場所・・・。
いざこざに巻き込まれることもあったが、腕っ節では人間なぞ相手にならないほどだったし、何よりもそんなことをせずとも相手を思いのままに操ることが出来た。
姿かたちも変えてみたりもした、吸血鬼ならやはり、と、映画に出てくるような格好をしてみたり、まぁ、身長や見た目はあまり変わらないわけだが・・・。年をとった風に見せることはできたので、今はそうして生きている。画家ならばやはりこれだろう。
言葉や物腰も余裕が出来たからなのか、かなり変わったように思う。
最初のころは、数日しか持たなかったのどの渇きも、いまでは一度血を吸えば、長くて一年、短くても半年程度は持つようになっている。


詩織「こら!朱(あけみ)はしゃぎすぎないの!」

定春 次に移動したのは小さな田舎町だった。そこに住処を移して数日、3人の少女を見つけた。

詩織「もう、あなたはいつもそうなんだから・・・」

定春
一人は亜麻色の髪をしたショートカットの元気のよさそうな少女。そんな二人を見て微笑んでいる同じく亜麻色の長い髪をした少女。
そして、髪の短い方・・・朱という少女をたしなめるている眼鏡をかけた少女・・・。
ほかの二人もいいが、私は眼鏡の娘に興味を惹かれた。次はあの娘にしよう。

詩織「それじゃ、あゆ、朱、また明日ね」

定春 少女がほかの二人と別れて一人になった時を見計らい声をかける。

定春「やぁ、ちょっといいかな?」

詩織「は、はい?あの、どなたでしょうか・・・?」

定春「ああ、実は君を見て、ちょっとモデルになってもらいたいなと思ってね」

詩織「モデル、ですか?えっと・・・」

定春「私は最近この町に越してきてね、絵を描いているんだけれど、よかったら、もちろんすぐにじゃなくていいんだけれど」

詩織「絵のモデル、ですか?」

定春「そうなんだけれど、まぁ、いきなりだと警戒してしまうよね」

詩織「はぁ・・・」

定春「興味はない、かな?」

詩織「その、いきなり過ぎますし、あなたの事全然知らないので、お断りします」

定春「まぁ、そうだよね。でも、そんなに時間はとらせないから、下書きだけでもさせてもらえないかな?」

詩織「あの・・・こんな言い方したくないんですけれど、迷惑です」

定春「そう、か・・・。今日は学校帰りかな?」

詩織「あの、そうですけど、もういいですか?」

定春
「あはは、かなり警戒させてしまったね。良かったら明日またここで会えないかな?わたしが描いた絵を見てもらいたいし、そうすればただの絵描きだということを信じてもらえるかもしれない」

詩織「・・・。やっぱり、遠慮しておきます」

定春「そうか、残念だな」

詩織「それじゃあ、失礼します」

定春 その言葉を最後にその少女は私の前から去っていった。最初からいい返事など期待してはいなかったが、だいぶ警戒心は強いようだ。まぁ、それが当たり前だろう。


定春「ふむ、まずは信用させるしかないか、さて、どうするかな・・・・」

定春
無理に絵を見せたとしても、私が描いたものかどうかで警戒されるだろうし。ふむ・・・。まずは彼女の身近な・・・そうだなあまり気は進まないが学校の方を利用してみるか・・・。職というものには抵抗があるが、致し方ない。

詩織 美術の講師が病気で少しの間休養することになって、臨時で新しい講師の人が来るらしいけれど・・・。

詩織「あ、あなたは・・・」

定春「やぁ」

詩織「新しい美術の講師って、あなただったんですか」

定春「うん、まぁ、臨時だから少しの間だけれどよろしくね」

詩織「絵描きというのは嘘じゃなかったんですね」

定春「はは、疑われて当然だけれどね、ましてあんなにいきなりじゃね」

詩織「そうですね、びっくりしました」

定春「えっと、もしかして君が委員長かな?学年の委員長が、わたしの紹介を担当してくれるそうだから、ここで待つようにといわれていたんだけれど」

詩織「ええ、そうです。天月詩織といいます」

定春「有馬定春というんだ。よろしくね。紹介はどんな感じで進むのかな?」

詩織「最初はわたしが質問をしたりして、そうですね、インタビュー見たくなると思います。その後でほかの生徒からの質問に答えて頂く、という流れになります」

定春「なるほど、緊張するね」

詩織「緊張してるんですか?わたしもできるだけフォローしますから、大丈夫です」

定春「そういってもらえると、ありがたいよ」



詩織「それでは、美術の先生が休養している間に、新しく臨時で来ていただいた先生の紹介をしたいと思います」

定春「有馬定春といいます、みなさんよろしくお願いします。短い間ですが仲良くしてくれると嬉しいです」

詩織「こちらこそ、短い間ですけれどお願いします。定春先生」

定春「学校は初めてだから、不甲斐ない部分もあると思うけど、こちらこそよろしくね。それにしても、先生っていい響きだね」

詩織「定春先生は最近こちらに来たばかりなんですよね?」

定春「そうなんだ、だから、町のことも良くわからなくてね、よかったらそこら辺も教えてくれると嬉しいな」

詩織「あまり便利じゃないですけれど、静かでいい町だと思います」

定春「そうだね、それは感じているよ」

詩織「絵は昔から描いていたんですか?」

定春「そうだね、かなり昔から描いているね、最初は本当にヘタですごいコンプレックスだったんだけれどね」

詩織「絵が好きだったんですね、一つの事を続けるのってすごいことだと思います」

定春「しばらくは下手の横好きだったけど、急に描き続ける事ができるようになってね、そしたら楽しくなってね」

詩織「楽しめることがあるのはいいことですよね。それでは、ほかになにか先生に聞きたい事がある人がいたら、手を上げてください」

定春「はは、こんな経験は無いから緊張するけど、質問があったらなんでもどうぞ」



定春
それから他の生徒達からの様々な質問に答えた。私の紹介は授業の最後の時間に行われたので、その後、職員室まで詩織に着いて来てもらい、少し話しをした。

詩織「おつかれさまでした」

定春「いやぁ、最初はどうなることかと思ったけれど・・・。流石、委員長だね、テキパキとしていてスムーズな流れだったし」

詩織「そうですか?」

定春「ああ、助かったよ」

詩織「それならよかったです」

定春「あのインタビュー形式なのは、君が考えたのかい?」

詩織「そう、ですね・・・。ああやって、私が最初の方に色々聞いておけば、他のみんなも質問がしやすくなると思って・・・」

定春「なるほど、確かにいいかもしれないね」

詩織「相手がどんな人なのか、少しわかってくれば、話しやすくなることもあるでしょうから」

定春「それに興味も掻き立てられる、というわけだね」

詩織「そうですね・・・。本当はあまり自信はなかったんですけれど、うまくいったみたいでよかったです」

定春
彼女は引くところは引いて、出るところは出る、ということが出来るタイプのようで、今日の質問の時にも、最初の質問以外は黙って聞いていた。
だが、少し生徒が調子に乗りすぎた質問をした場合はうまくたしなめていたし、そんな彼女の言うことも生徒たちは、てへぺろ とか言いながらもちゃんと聞いている。
みんなが言うことを聞く、ということに関しては、彼女が委員長だからというわけでもなく、そんな人柄だからなのだろう。

定春「っと、ああ、もうこんな時間か、引き止めてしまって悪かったね」

詩織「いえ、いいんです。それでは先生、これからよろしくお願いします」



定春
学校が休みの日、散歩がてらに見つけたレストランで詩織とその友達の二人、あゆと朱といったかな?をみつける。
盗み聞きをしてみることにする。まぁ、地獄耳というのだろうか吸血鬼の能力の一つだ、離れていても聞くことが出来る。
話を聞くに、可愛い娘は食べられるとかいう、妖怪や幽霊の話をしているようだ。


詩織「え?そうね、食べられるのは嫌ね・・・。でもそうね、わたしは別にそこまでかわいくないから、平気かもしれないわね」

定春 あゆと朱はその言葉に少し戸惑っているようだ。

詩織「?どうかした?」

詩織「え?そうね、ふふ、ブスっていわれたら流石に怒るけど、、あゆや朱に比べたら、全然だと思うわ」


定春 彼女は、自分の容姿がそこまでは良くないと思っているらしい・・・。ありえん。


詩織「それに、ほら、あゆとか朱は告白、とか、されたことあるじゃない?私は無いもの、だから・・・・」


定春 二人は懸命に詩織のほうが可愛いと言っているが、当の本人はそんなことはないと思っているようだ。


詩織「・・・・もう、二人してなに言ってるのよ」

詩織「二人とも慰めてくれるのは嬉しいけれど、自分のことだもの、わかってるわよ」


定春
詩織のその言葉に、二人のため息が聞こえた。詩織が学校でどれだけ人気があるのかという話にシフトする。やはりもてるのだろう。


詩織「ふふ、男子たちが私のことを聞くのは、私が委員長だからよ。悪ふざけとかしたときに、私に見つからないためにとか」


定春 詩織も自分に自信がないタイプなのか。でも、昔の私とは明らかに違う。


詩織「何より、男子は私がいると逃げていくじゃない。男子っていつまでも子供みたいだけれど、そういうのって大事だと思うし、微笑ましいと思うけど」


定春 詩織はそういっているが、二人の会話から察するに、男子からは高嶺の花だと思われているらしい。まぁ、そうだろう。


詩織「そうかしら?ふふ、二人ともありがとう、なら少しだけ自信を持つようにするわ」


定春 やがて話は詩織も告白をされたことがあるという話に移った。 


詩織「え・・・?ああ、ふふ、そういえばあったわね、、でも悪ふざけみたいなものだったんじゃないかしら?」

詩織「会うも何も、あの場でちゃんといったじゃない、私なんかにそんな事いわないで、もっといい人にちゃんといいなさいって」

定春 どうやら詩織に告白をした男子やラブレターを渡した男子の話らしい。

詩織
「あったわね、一生懸命書いてくれたみたいだけれど、わたしはそんな気がないし、、直接言ってきた彼と同じような事をいって断ったけど・・・その後二人で、賭けに負けた見たいな事話てるの聞いたから、叱っておいたわ」

定春 男心がわかってないな、この女は・・・。

詩織「それに、その後は別に誰からもなにもないわよ」


定春
男子生徒の名前を聞くに、確かその告白した二人は学校内でも人気が高く、親友同士で仲が良かったはずだ。
後々、賭けがどうのこうのも、男子特有の負け惜しみのようなものだったのだろう・・・・。
その二人がフラれた、ということで完璧に詩織は高嶺の花として認定されてしまった、だから誰もその後で告白をしようなどとは思わなかったのだろうな。

詩織「特定の男子との付き合いとかに、興味がないわけじゃないけれど、今はまだそんな気にはなれないしね」

定春 それでも、詩織の友達である、あゆと朱という少女は詩織は可愛くて美人だと説明しているが・・・・。

詩織「はいはい、二人とも、もうわかったからこれ以上からかわないで」

定春 珍しいタイプなのか、そうでないのか、わたしはその会話を聞き、少し微笑ましさを感じていた。



詩織 定春先生が来てから数週間がたち、その授業にも慣れてきた。元の講師の人はまだ体調が良くないみたい。大丈夫だと良いけれど・・・。

定春「詩織さん、絵の進みはどうかな?」

詩織「あんまり・・・。絵は、得意ではないんです」

定春「得意じゃないといいながら、結構描けてると思うけどね」

詩織「そうでしょうか?」

定春「わたしはもっとヘタだったからね」

詩織「いまではすごく上手じゃないですか」

定春「長くやっていれば、ね」

詩織「継続は力なり、ですね」

定春「そうだね、あ、そうだ、あらためてもう一度お願いしたいんだけれど」

詩織「絵のモデル、ですか?」

定春「ああ、駄目かな?」

詩織「・・・。本当にわたしで良いんですか?」

定春「もちろん、でも君は自分に自信が無いのかな?」

詩織「自信が無いというよりは、別にそこまででもないなって、思ってます」

定春「その言葉、君よりも出来ない人が聞いたら怒られそうだね」

詩織「あ、その・・・。あゆと朱にも、あ、わたしの友達なんですけれど、同じ事言われちゃいました」

定春「それで、答えは?イエス?ノー?」

詩織「ふふ、わかりました。それじゃ、描いてもらってもいいですか?」

定春「よかった。ありがとう」

詩織「あ、わたしからも言いたいことがあるんです、あの時は失礼な態度をとってしまってすいませんでした」



定春
こうして講師をしているうちに、だいぶ打ち解けたような気がする。絵のモデルも引き受けてもらえたし・・・。しかし、ヴァンパイア、吸血鬼とは便利なものだ。
まず物覚えがてき面に良くなる、なんでもスルスルと覚えられる。そのおかげで学校の講師という職業にも適応できている、人間の時にはこんなにうまくは出来なかっただろう。
人の心も読めるから相談に乗ることも多い、それと同時に、人と話すのも面白いと言っていた、彼女の言う事もわかった。
心を読む前に色々とコミュニケーションをとる、というのも楽しいものだ。


詩織「あ、定春先生、おはようございます」

定春「おはよう」

詩織「絵を描いてもらっているので、なにかお礼ができないかなって考えていたんですけれど」

定春「え?ああ、気にしないで良いよ、頼んだのはわたしの方だからね」

詩織「いえ、でも、お礼がしたいなって思ったんです。それで、良ければわたしの家に来ませんか?なにかご馳走したくて、わたしの手料理でよかったら、ですけど・・・」

定春「料理か、いいのかい?君がいいのなら、喜んで行かせて貰うよ」

詩織「よかった、では、今週の土曜日なんて空いてますか?」


定春
食事、か・・・。吸血鬼は食べなくても平気だから、暫くは食べていなかったが・・・。久しぶりに人間の食べ物も悪くないだろう。
吸血鬼にとっては毒にも薬にもならない。味を楽しむだけだし、何より人間の生活に溶け込む必要があるので食わないわけにはいかない事もある。
映画などのように食べられないというわけではないので、このあたりはアヴェイユから吸血鬼にしてもらったからなのか、ありがたいというか、助かりはする。



定春「一人暮らしなのかい?」

詩織「ええ、そうなんです。両親は事故で他界してしまって・・・。家を遺してくれたのでなんとか一人でやってます」

定春「それは、悪いことを聞いたね」

詩織「いえ、気にしないでください」

定春「それにしても、いいのかい?男と二人きりというのは」

詩織「先生がそんなこと言ったら駄目です。ふふ、それに先生、お幾つですか?」

定春「まぁ、老人に見えるかもしれないけれど、心は若いつもりだよ」

詩織「いいことだと思います。あ、先生、嫌いなものとかって聞くの忘れちゃってたんですけれど・・・」

定春「ああ、大丈夫だ、嫌いなものは特に無いよ」

詩織「なら良かったです」

定春
彼女が作ったものは、マリネのサラダと、チーズの入ったハンバーグ、それとコーンポタージュだった。味はかなり美味しい。
それに、わたしが人間だったころに好きだったものだ・・・。懐かしさを感じるな。

詩織「味は、どうですか?」

定春「いやぁ、美味しいよ、レストランよりもずっと美味しい・・・。そうだ、君の絵が完成したから、もって来たよ」

詩織「本当ですか?見せてもらってもいいですか?」

定春「ああもちろん・・・。どうかな?」

詩織「本当に上手ですね、でも、こんなに綺麗じゃないですよ、わたし」

定春「いや、わたしは見たままを描いてるから、君の美しさはそこに描いてあるとおりだよ」

詩織「またそんなこといって、ふふ」

定春「良かったら、受け取ってほしい」

詩織「え?いいんですか?」

定春「そのために持ってきたからね」

詩織「ありがとうございます」



定春「美味しかったよ、ごちそうさま」

詩織「いえ、お粗末さまでした」

定春「あまり長居してもあれだから、今日はそろそろ帰るとするかな」

詩織「あ、途中まで送りますね」



定春
元の美術講師の話をちらほら聞くようになった。流石にこれ以上長引くとまずいだろう、彼女とは随分と親睦を深められた。そろそろフリーに戻るとするか。
まぁ、講師生活も悪くは無かったな。


詩織「今日が最後の授業、なんですね」

定春「そうだね」

詩織「短い間でしたけれど、なんだか寂しいですね」

定春「わたしもこの年になって、貴重な体験をさせてもらったよ」

詩織「わたしも楽しかったです。ありがとうございました」

定春「そうだ、良かったら、わたしのアトリエ、まぁ、家だね。来てみないかい?」

詩織「アトリエですか・・・。そういうところに言ったことがないので興味はあります」

定春「君の家にも招待してもらったからね。絵なら好きなだけ見てくれていいよ。あとは、自分用にもう一枚描いておきたいから、モデルをもう一回お願いしたいんだ」

詩織「それはいいですけれど、ご迷惑じゃないですか?」

定春「迷惑なら頼まないよ」

詩織「そうですか、なら、お言葉に甘えて、行かせて貰います」




定春 彼女を自分の住処に来させることに成功した。彼女の血はどんな味がするのだろう・・・。楽しみでならない。


詩織「生活品があまり無いんですね」

定春「まぁね、元から不精者でね」

詩織「料理とかもしないんですか?」

定春「昔はしていたんだけれどね、いまは殆ど外食かな」

詩織「体に悪いですよ」

定春「はは、まぁ、大丈夫さ・・・。さて、下書きが出来たから、あとは自由に見てくれてかまわないよ」

詩織「本当にすごく沢山の絵がありますけれど、肖像画ばかりなんですね」

定春「そうだね、まぁ、自然とかも好きなんだけれど、やっぱり描くなら詩織さんのような可愛らしい娘がよくってね」

詩織「わたしはそんな・・・。でもここにある絵のモデルの人、みんな綺麗で可愛い娘ばかりですね」

定春「君も十分可愛いと思うけれどね」

詩織「お世辞でも嬉しいです」

定春「お世辞ではないんだけれどね。実際こうしてモデルになってもらってるわけだし、女性を見る目はそれなりにあると思うのだけれどね」

詩織「そういってもらえると、嬉しいです。けど、誰にでもそういってるんじゃないですか?」

定春「誰にでも、ではないな〜」

詩織「でも、こんなに沢山の人をモデルにしてるんですし」

定春「まぁ、そう思われるのも仕方ないかな」

詩織「本当に綺麗な人ばかりですね」

定春「詩織」

詩織「なんですか?」

定春 わたしは彼女の瞳を見つめる。眼鏡の奥にある綺麗な瞳・・・。そして、わたしの物になるようにと暗示をかける。

詩織「あの、せんせ・・・っ・・・」

定春 瞳を見つめても、彼女は他の獲物と違い、人形のようにならない。その瞳には意思が宿ったままだった。

詩織「ご、ごめんなさい、ちょっと気分が悪くなってきたみたいで・・・。今日は帰らせてもらいます」

定春「大丈夫かい?家まで送ろう」

詩織「・・・。いえ、大丈夫、だと、思います・・・」

定春 魅了が効かない・・・。初めての経験だった。驚きはしたが、同時に未知の期待を感じもした。


定春
その後もわたしは、彼女の絵を完成させるまでという名目で、彼女をアトリエに呼んでいた。
警戒されてもう来てはもらえないかと思ったが、そんなことはなかった。

詩織「絵のほうは、どんな感じですか?」

定春「そろそろ完成しそうだよ」

詩織「そうですか」

定春「学校にいたころは、制服姿の君を描いていたからね。この間の私服姿も新鮮で良い」

詩織「あ、それなら、同じ服のほうが良かったですね」

定春「いや、気にしなくて良いよ。ちゃんと覚えているからね」

詩織「物覚えがいいんですね。学校にいたときも、色々な相談を受けていたみたいですし、先生って物知りなんですね。結構人気あったんですよ」

定春「それは嬉しいね、正直、わたしはあまり社会に出たことが無くてね」

詩織「そう、なんですか?それにしては慣れているように見えましたけれど」

定春「そう見えただけだよ、実際はかなり緊張していたからね」


定春 そんな話をしているうちに、絵が完成する。


定春「君は、人間以外がいることを信じるかい?」

詩織「え?急にどうしたんですか?」

定春「わたしはね、人間ではないんだ」

詩織「にんげん、じゃ、ない?」

定春「そうだ、わたしは吸血鬼」

定春 わたしは自らがヴァンパイア、吸血鬼であることを彼女に告げる。

詩織「え、あの、、」

定春 彼女は信じられないという顔で私を見る、まぁ、もっともな反応だ。

詩織「も、もう先生、そんな冗談・・・」

定春「嘘を言っている様に見えるかい?」

詩織「そんな、そんな漫画や御伽噺(おときばなし)のようなものが存在するはず・・・」

定春「君の絵を描かせて貰ったね」

詩織「え?ええ・・・・」

定春「ここにある絵もみたね」

詩織「そうですけど、それが・・・・」

定春「みんな私が血を吸った人たちだ。気に入った人がいれば、その絵を描き、描いた後でその血を吸ってきた」

詩織「え・・・・えっと・・・・」

定春「証拠なら、ほら」

定春 わたしはそういって自分に生えた牙を見せる。

詩織「っ、あ、で、でも、そんな人も居るんじゃないかなって・・・」

定春 「そうかい?ならこれならどうだい?」

詩織 先生がわたしの瞳を見つめる・・・・。その途端、わたしは頭がくらくらしてその場に座り込んでしまう。

定春「これが、吸血鬼の能力、魅了・・・・前にためさせてもらった、けれども君は意志が強いのかあまり効果がなくてね」

詩織 気分が悪くなる、頭の中をかき混ぜられたみたいだった。

定春「前にもこんなことがあった」

詩織「な、なに・・・っ!」

定春「君の心を読んだのさ」

詩織「っ!」

詩織 たまらず私は駆け出して、先生から逃げだした。初めて彼の瞳に見つめられたときには気がつかなかったけれど、今ならわかる、あれは間違いなく恐怖。


定春「・・・・やっぱり、効かないか・・・・いいさ、君は魅了の能力なしで手に入れてみせる」

定春
その場から駆け足で去っていった彼女をみながら、わたしはそう呟いた。




アヴェイユ「だいぶ吸血鬼っぽくなったね」

定春 久方ぶりにアヴェイユ、彼女がわたしの前に姿を現す。

アヴェイユ「ずいぶん沢山の人の血を飲んだみたいだね」

定春「かなりな」

アヴェイユ「定春は若い娘が好きみたいだけれど、男の人とか少し年をとったのも悪くないよ?」

定春「男などどうでもいい」

アヴェイユ「ふふ」

定春「やはり、若い女の血のほうがいい、まぁ、それ以外は飲んだことは無いんだが・・・」

アヴェイユ「試しに飲んでみればいいのに」

定春「まぁ、いずれ、な」

アヴェイユ「・・・もう、あなたの心は私でも覗けなくなっちゃってるね」

定春「そうか、それだけ、強くなったということか」

アヴェイユ「そうだけれど、ね。ふふ、強さには興味が無かったんじゃなかった?」

定春「動物の血は不味いしな、病院を買収して血液を得るというのも考えたが・・・」

アヴェイユ「ふ〜ん、しなかったんだね」

定春「金に興味が無くてなぁ・・・。まぁ、獲物は沢山居るし、殺したりしなければ、別段騒ぎにもならなかったし、なにより・・・」

アヴェイユ「血を吸ったときの快感がわすれられない、そうでしょ?」

定春「心は覗けなくなったんじゃないのか?」

アヴェイユ「あなたはわかりやすいもの、嘘が苦手だし、ね」

定春「敵わないな」

アヴェイユ「ふふ、次はここで血を吸う相手を探すんだよね?」

定春「ああ、もう目星はついている」

アヴェイユ「へぇ〜、でもまだ手をつけてないんだ」

定春「いや、手を出そうとしたんだが・・・。魅了が、通じなくてね。二度ほど試したんだが、駄目だったよ」

アヴェイユ「へぇ〜、今の定春でも駄目だったんだ・・・・。その娘、相当に意志が強いね。人間では珍しい娘だね」

定春「必ず、手に入れてみせる」

アヴェイユ「ふふ、気をつけてね、私たちみたいなのを狩り取るハンターとかって居るから」

定春「やっぱり居るのか」

アヴェイユ「今では、私たちと同じくらい珍しくなっちゃってるけれど、ね」

定春「それは人間、なのか?」

アヴェイユ「人間は、もう殆どいないんじゃないかな。人間じゃない癖に人間を護ろうとしてるのならいるね」

定春「人間を護る?こんなに大勢居るんだ、少しくらい減ったって問題ないんじゃないか?」

アヴェイユ「わたしも、そう思うのだけれど、ね。人間と自分たちとの矜持というか、なにか考えがあるみたいだよ」

定春「めんどうだな」

アヴェイユ「そうだね、だから、大切なことを教えておくね」

定春「大切なこと?」

アヴェイユ「そ、あなたがこの先もヴァンパイアとして生きてゆくなら、わたしみたいに誰かを仲間にしたいとか思うかもしれないから」

定春「あの娘を仲間にしたいと思っている」

アヴェイユ
「ふふ、まぁ、いいのだけれど、ね。ただ、定春が血を吸った相手なら私たちと同じようになれるけれど、その子が血を吸って、誰かを仲間にしたいと思ってそうしたら、同じにはならないよ」

定春「つまり、私が仲間にするにはまだいいが、私が仲間にした者が仲間をつくったら、私たちと同じようにはならないということか?」

アヴェイユ「うん。グールとか呼び方は何でもいいのだけれど、よく映画とか本にでてくるような、太陽がだめとか、常に血を吸ってないとだめとかになっちゃうね」

定春「それは、まずな・・・」

アヴェイユ
「そ、だから、定春が前に言ってたように無闇に仲間を増やしていくと、ハンターとかに狙われる可能性が高くなっちゃうから・・・。結構強いよ?人間じゃ、ないから」

定春「そうか、戦いは嫌いだ、なるべく避けたいな」

アヴェイユ「まぁ、たまにするのも、面白いけれど、ね。ふふ・・・そろそろいいかな」

定春「そろそろ?なにがだ?」

アヴェイユ「ふふ、わたしの知っていることを教えてあげる。ちゃんとした吸血鬼になったご褒美、だよ」

定春
そう言うと彼女は私の目を見つめる、彼女の瞳が怪しく光ったように見えたそのとき、頭に様々な知識が流れ込んでくる。これが、彼女の知っていることなのだろう。
吸血鬼にはこんな能力もあるようだ。

定春「っ・・・。なぜ、最初からこうしなかったんだ?」

アヴェイユ「最初からやると、頭がどうかしちゃうよ。それに、話すのは嫌いじゃないから」

定春「そうか・・・。ふぅ、たしかに頭がクラクラするな」

アヴェイユ「ある程度強くなってからじゃないと、うまくいかないんだよね、これ」

定春「なるほどな・・・っと、ああ、そうだ、また君の絵を描いた。いまなら渡してもいいだろう」

アヴェイユ「ふ〜ん、本当にうまくなったね」

定春「そりゃ、長い間描き続けていればな」

アヴェイユ「ありがと、貰っておくね」


定春
それから彼女達はわたしの前に姿を見せていない。人間の少女のほうは、私から見つめているが・・・。
そういえば、わたしはいままで何人もの、それこそ、肖像画を描いた枚数の分だけ、壁に飾れずに積み上げているものも含めれば、数え切れないほどの少女達の血を飲んだが、だれとして、仲間にしようとしたものは居なかった。

定春「やはり、仲間にしたいな」

定春
そうは思いはするが、それでも、どこかで人間としての意志の強さを持つ彼女を見ていたいという気持ちもあった。
思えば、血を吸う機会はいくらでもあったはずだ、なのにそれをしなかった。
そんなことを考えながら彼女を見ていると、神妙な顔をしたその彼女に二人の男が近づきなにやら話をしている。
その会話を盗み聞くに、どうやらあれが・・・。

詩織「吸血鬼なんて、本当に居るんでしょうか?でも、なにか人とは違うかもしれないって思い始めて、それに、ずっと見られているような気がして・・・」

定春
吸血鬼ハンター・・・あれがそうか。わたしの中の吸血鬼としての血があいつらは危険だと言っている。黒髪の長髪の男に、同じく黒髪だが短い髪の男の二人・・・・。
なんとなくだが、私と同じ人外の匂いがした。人あらざるものでありながら人の味方につく、か・・・。

定春「これは諦める他ないか・・・」

定春 ため息交じりにわたしは呟くが、不思議と悔しさはなかった。

定春「なに、楽しみが少し伸びただけだ・・・今はやめておく、それだけだ・・・。それに私がほしいものは、本当にほしいものは、もうひとつある」

アヴェイユ「わたしがほしい?」

定春
彼女の声がしたような気がした。待ち焦がれ、恋焦がれ続けた存在。人間に対しての恋が彼女ならば、人ではない者なら彼女だ。
アトリエとは別に、棺の置いてある地下室に飾ってある彼女たちの絵を見ながら、わたしは思いをはせた・・・。
いつか必ず、手に入れてみせる、と・・・。


///////////////あとがき///////////////////////////////////////////////

いやぁ、この自分を物語りに組み込む癖はまずいかなぁ〜と思うのですが、まぁ、しょうがないよねぇ〜とかおもいつつ、勢いのままに書いて見ました!
ま、願望ですね!現実逃避ですね!こうなったら良いなって言う、人間以外になれば人間のしがらみや悩みから解き放たれるかもしれないなどと考えちゃってました。

あとはまぁ、自分の名前を出すのはあれです、名前が思いつかなかったり、己の願望を多大にいれたキャラとかにつけてますwこれからも出てくるでしょうが、そんなの見つけたら、あー、またこいつやってるなーとか思ってください。

とりま次回予告、次回がいつになるかはわからないけれどね!
題名は ハンターとかになるかなぁ。
わたしは自分のキャラを使い回しするので、どっかで見た名前のキャラが居ても気にしないでくだしあ。
一応、出すキャラクターの設定だけ、書いておきます。本当にいつになるかわからないけどね!あるかもわからないけどね!

アレス・ディアリー
吸血鬼ハンターだが教会に属しているわけではない。
かなりの凄腕であり、人間を吸血鬼にかえる存在を排除している。
人は人として生きるべきだという主張もすると同時に、人が苦しみから逃れるために人外を望むことも知っている。
排除はするが殺しはしない、あくまで人間からの排除のみ。人の世界に踏み入ることを好まないだけであり、自身も人外であり、フェンリルと呼ばれる狼人間の王。

絶影
アレスと行動を共にしている男で、吸血鬼などのような能力はなく、見た目は普通の人間と変わりないが、異常なほどの戦闘能力を持っており、アレスすら凌駕するほどである。彼もまた人外であり、鬼と呼ばれる滅びに瀕した種である。アレスと同じように人間

は人として生きるべきであるという考えを持っている。
鬼は嘗て人と共に生きたが、人の裏切りによって絶滅に瀕している。が、それでも彼は人を信じている、、自分たちを追い詰めたその強さを・・・。

シルフィリア・ファインシルツ
みずからが住むところを孤児院にして子供たちと住んでいる少女。
聖少女といわれている。
日々祈りをささげており、その願いは人々の安らぎと人によって迫害された者達へと捧げられている。
アヴェイユとも交流があり、彼女にその血を狙われることもあるが、血を吸われるにはいたっていない。
彼女の血には特別な力が秘められていおり、元から人でないものが飲めば能力が飛躍的に上がり、元人が飲めば人間に戻れるという。


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